四国犬と神経セロイドリポフスチン症

 9年ほど前カナダで産まれた四国犬兄弟2頭が原因不明の脳神経病を発症し、これをきっかけに国内の方でもこのような病気を持った犬が過去にいたのか、現在いるのか、データを集めるようになりました。結局同時期国内に同じ症状がある2頭を見つける事ができ、その後都内にお住いの知り合いが飼っていた牝コユキちゃんも発症しました。

ちょっと見苦しい所ありますが、発症犬のビデオはこちらになります。



ビデオに写っているコユキちゃんは3歳でした。

コユキちゃんは平成28年とある獣医大学にてMRIの検査などがされましてライソゾーム蓄積病(神経セロイドリポフスチン症「CL症」)の疑いが強いと診断されました。その後コユキちゃんがお亡くなりになって解剖でやはりCL症だとわかりました。CL症は遺伝する病気でコユキちゃんの母犬がもう一腹産んでおりまして、やはりその中にもう一頭CL症の子がいました。

 

自分が今まで見て来たのは10頭ほどですが、殆どの場合症状は1歳未満から確認できまして、子犬の頃からちょっと運動神経が悪い、よく転ぶ、後ろ足が弱いなどの症状がみられます。これが生後6か月頃から明らかに異常がみられ、1歳未満で後ろ脚に力が入らなくなり、素人でも気になるほどです。この病気は進行がかなり早く、後ろ足からどんどん頭の方へ異常が出て、上手く歩けなくなり、失明する犬もいます。概ね3歳~5歳でお亡くなりになる犬が多いです。この病気は治療法はありません。

 

犬のセロイドリポフスチン症とは

 

セロイドリポフスチン症(CLCeloid Lipofuscinosis)とは、遺伝性の疾患で、脳などの神経や網膜、全身の細胞に、セロイドリポフスチンという色素が蓄積して起こる病気です。

NCLCL症、LSDと呼ばれる事があります。正確に言うとLSD(ライソゾーム蓄積病)の一種です。柴犬に見られているGM1LSDの一種ですが、四国犬の病気と似ていますが遺伝マーカーなどが違うようです。

 

細胞内にはリソソーム(ライソゾーム)という、老廃物や傷ついた自分の細胞などを、酵素を使って分解・消化する小器官があります。分解したものはまた別の物の材料として使われたりするので、細胞内のリサイクル工場によく例えられます。

 

セロイドリポフスチン症では、遺伝子変異により、リソソームでの分解に必要な酵素が欠損し、老廃物が細胞内のリソソームに蓄積して、細胞が死んでいきます。そのため、セロイドリポフスチン症はリソソーム(ライソゾーム)蓄積病と呼ばれる疾患のひとつでもあります。

 

他のリソソーム(ライソゾーム)蓄積症では、柴犬でのGM1ガングリオシドーシスが有名です。また、セロイドリポフスチン症は、治療法のない致死的な遺伝性疾患です。

国内では、ボーダー・コリー、チワワなどで発症が報告されており、他にも、多様な犬種での発生が認められています。

 

犬のセロイドリポフスチン症の症状

 

セロイドリポフスチン症の症状は多様です。約1歳から2歳の間に発症することが一般的です。セロイドリポフスチン症の症状は、以下のようなものが挙げられます。

 

<セロイドリポフスチン症の症状>

・行動異常

 -攻撃性

 -活動過多

 -頭を振る

 -痴呆など

・音などに過敏になる(怖がる)

・視覚障害

・震え

・歩き方がぎこちない

・うまく歩けない、起き上がれない

・けいれん

犬のセロイドリポフスチン症の原因

 

セロイドリポフスチン症は、さまざまな犬種で、さまざまな部位での遺伝子変異が見つかっており、国内ではボーダー・コリーでの発症がよく知られています。

遺伝子変異により、セロイドリポフスチンが分解されず、細胞内に蓄積し、発症します。

特に神経細胞へのセロイドリポフスチンの蓄積により、神経症状が中心に現れます。

セロイドリポフスチン症を発症した犬で、遺伝子変異が特定されていない犬種もあります。

現在鹿児島大学の大和教授がこの病気を研究しておりまして残念ながら四国犬の遺伝変異はまだ特定できていません。自分はいくつか試した事もありますが他犬種で使われている遺伝検査キットでは結果がでません。柴犬が発症するライソゾーム蓄積病であるGANGLIOSIDOSIS GM1」のキットも試してみました。

 

こういう事もあり、昨年11月に開かれた「四国犬桜会」の鑑賞会に大和教授がわざわざ来て頂き会員全員の協力の為30頭以上の四国犬DNAサンプルを採取できました。その時にもう一頭近くで飼われていた発症犬の採血にも成功し今後の研究に大きく役立つデータだと思います。現在ホールゲノム解析が行われており、これはやはり時間と費用がかかります。治療法がないこの病気、無くすためには遺伝検査しかありません。検査できるようになれば、繁殖に使われる四国犬を全頭検査し、そのデータの元で繁殖しますとこの病気を撲滅できるはずです。

 

<セロイドリポフスチン症の検査>

・神経学的検査

・血液検査

X線検査

・眼科検査

CT検査/MRI検査

・遺伝子検査

 

セロイドリポフスチン症の確定診断は、病理組織検査ですが、生前には行えません。

経過や検査所見、犬種や発症年齢などから総合的に判断されます。

 

犬のセロイドリポフスチン症の予防方法

 

セロイドリポフスチン症の予防方法はありません。

ただ、遺伝性疾患なので、セロイドリポフスチン症が発症する犬が生まれないように、繁殖計画を立てることが、唯一の予防方法といえます。

セロイドリポフスチン症を発症した犬の両親、きょうだい、血縁の犬での発症や繁殖には十分注意する必要があります。

 

犬がセロイドリポフスチン症になってしまったら

 

セロイドリポフスチン症の治療法はありません。動物病院では症状を和らげる対処法があれば行い、飼い主様が犬の状態に合わせて生活の補助などケアをしていくことになります。

 

治療法のない進行性、致死性の病気なので、重度になってくると、安楽死を選択肢に入れる場合もあります。

 

何かご不明な点がございましたら連絡下さい 

日本犬保存会千葉支部 加藤茂 090-6107-3656

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