犬を使ったトラッキングは、海外では一般的に「Tracking」と「Blood Tracking」に分けられます。その違いは、Trackingが“生きた獲物の匂いを追う”ことを指すのに対し、Blood Trackingは“半矢(負傷した)獲物を追う”ことを意味します。さらにTrackingを細かく分類すると、「on-lead(綱あり)」と「off-lead(綱なし)」に分かれます。Blood Trackingはほとんどがon-leadで行われます。
このトラッキングという考え方は、日本のハンターにはあまり馴染みがありませんが、特にヨーロッパではBlood Trackingは大物猟において必須の要素になっています。動物愛護の観点から、半矢の獲物を回収できない、あるいは放置することは違反となる場合があるためです。撃った獲物は、最大限の努力をもって回収することが法律で義務づけられています。
国によっては、トラッキングの資格を持つハンターと犬のチームとの契約がないと、大物猟を行えない場合もあります。
また、ノルウェーなどでは車で野生動物を轢いてしまった場合、野生鳥獣管理局へ連絡する義務があります。その指示に従い、管理官が現場へ派遣され、そこで呼ばれるのが「Tracking Team」です。このように野生動物に対して最大限のリスペクトを払う姿勢は素晴らしいと思いますし、今後は世界的にも、ここまで徹底しないと狩猟が許されない時代になると感じます。
日本ではまだ上記のようなルールや常識が浸透していないため、トラッキングチームはほとんど存在しません。しかし、こうした高いレベルの訓練を通して、今後の野生鳥獣問題に地域貢献できるハンターが増えても良いのではないかと思います。特に熊の問題が深刻化している現在、半矢となった熊を人間だけで探すのは極めて危険です。半矢の獲物はブッシュの中に隠れていることが多いため、犬の優れた嗅覚で早期に発見することが重要です。
「Tracking(トラッキング)」猟法ですが、忍び猟のように犬とともに静かに山を歩き、犬が匂いをとりハンターと一緒ににゆっくり距離を縮めて最終的には獲物をポイントする。それを確認したハンターが撃つ――というスタイルになります。
現在、オーストラリアやニュージーランドでは特に鹿猟で人気があり、北欧ではヘラジカ猟にもこのスタイルが使われています。「Big Game Pointing Dog」や「Big Game Indicating Dog」と呼ばれ、ポインター系やそのミックス犬がよく使われています。しかし訓練性が高い犬であれば犬種はなんでも使えるようです。
実際自分は先月ノルウェーのフィヨルド地帯にて四国犬を使っている猟師の取材をしに行き、このような猟をされていました。
面白いことに、この猟法は千葉県でもすでに行われています。
1970年代、千葉県では猪が絶滅し、鹿も勝浦方面でわずか200頭ほどが保護されている状態でした。そのため、2000年頃までは千葉の大物猟はほとんど存在していませんでした。
しかしハンターたちが他県から猪を導入・放獣し、鹿も保護のもとで増えた結果、今では狩猟のパラダイスとなりました。鳥猟犬しかいなかった千葉県で、ポインターやセッターが猟場で偶然大物にポイントしたことがきっかけとなり、特に鋸南エリアでは鳥猟犬がグループ猟にも使われるようになりました。
この猟法のメリットは多くあります。
まず犬が獲物と直接接触しないため、怪我をするリスクがほとんどありません。
また、獲物も犬に追われたり咬まれたりするストレスを感じません。
さらに犬が目的以外の野生動物を追ったり咬んだりすることもなく、猟師の管理下(おおむね10~20m以内)で安全に行動できます。
ヨーロッパでは獲物の捕獲数や性別に制限があるため、犬が雄ヘラジカを発見しても、雌の許可しかない場合は犬を呼び戻し、別の獲物を探すことが可能です。
これも大きな利点の一つです。
デメリットを挙げるとすれば、ここまで高度にコントロールできる犬を育てるには非常に忍耐強い訓練が必要だということです。どれほど大変かは、自分で経験してみないと語ることはできません。そこで、私もTracking Dogの育成に挑戦してみようと思っています。
その第一歩として、甲斐犬の月ちゃんを初めてトラック(追跡)にあててみました。
なぜ甲斐犬を使おうとしているのかと言えば、その高い訓練性、飼い主に合わせる柔軟な性格、そして他の日本犬と比べて獲物を強く咬みとめない個体が多いからです。むしろ少し臆病でポイントするようなタイプの甲斐犬も少なくありません。月ちゃんはまさにそのような犬だと思います。動画をご覧いただければ分かる通り、警戒心を保ちながらも匂いをしっかり追います。初めての50メートルほどのトラックで、見事にタヌキまでたどり着くことができました。今後もトレーニングを重ねていく予定で、これと組み合わせた面白い企画も考えています。
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